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上黒岩岩陰遺跡考古館

昨年の夏真っ盛りに訪れた旧山中家住宅にほど近い場所にある。
所在地 愛媛県上浮穴郡久万高原町上黒岩

入場料はたったの¥100
開館時間はAM10:00〜PM5:00
12月1日〜3月31日まで及び毎週月曜休館

お名前を尋くのを失念したが、発掘当時の集合写真に小学生時代の姿(画像最前列左端)が写る管理人さんが、展示物それぞれについて親切に説明してくれた。

線刻礫(石偶)

上黒川岩陰遺跡では、小型の礫に女性を型どったと思われる線刻のある石偶が13点出土し、何らかの儀式や祈りが捧げられていたの想像されます。これらは上黒岩女神石、線刻礫など様々な呼び方がされてきましたが、春成秀爾さんによって石偶と名付けられました。また、石偶とは別に縄文草創期後半の層から、棒状の線刻礫が3点見つかっています。
線刻の状態を見ると比較的細く、石器などの刃先でひき掻いて刻みつけています。
長軸方向に左右に振り分けた方向に髪の毛と思われる線刻があるものが多く、いくつかには下半分に横線を引いた後に縦線を刻んだものがあり、腰蓑を表現していると考えられます。また下半身部分には鋸歯状の横線が表現されている例が数点あります。これについては、草創期後半の棒状線刻礫とも共通し、江坂さんは腰蓑の表現、春成さんは女性性器を表徴する陰毛の表現と指摘しています。さらに、乳房と考えられる弧状の線刻が3列、背面にも腰蓑状の線刻、および2点には肛門を表現しているのではないかと考えられるバッテン状の線刻が認められます。
春成さんは、大陸の旧石器時代後期のヴィーナス像と対比されると指摘し、大陸の骨格牙製のヴィーナス像の年代と大きくは変わらないとしています。石器の用途として、春成さんは子安貝と呼ばれる貝製装飾品の出土物もあることから、琉球列島の近世の例を参考に、上黒岩の石像や子安貝は出産の際に母親が手に握って安産を祈った呪物と解釈する説を提示し、上黒岩岩陰遺跡以外で石偶が発見されない理由として、他の遺跡では骨などを用いて作っているため残されず、手頃な石の素材が豊富な上黒岩では石偶として作ったために残されたと考えました。用途について私は違うことも考えています。9層の縄文草創期前半の段階では、上黒岩岩陰は土器の量などからみて、定住的な生活の場として使用されたというよりも夏の間の狩猟用の基地などとして、狩猟グループが短期的に使用したのではないかと思います。狩猟グループに妊娠した女性がいるとは考えにくく、どこか母村にのこしてきた妊婦の安全を祈る、または自らの安全と豊富な獲物を得ることを祈ったお守りの可能性もあると考えます。
なお、これら石偶について類例が認められないことから、後世のものが紛れ込んだ可能性も指摘されたことがあります。しかし、私が整理したところ、石偶は、すべて草創期前半の層からの出土であることが、発掘当時の写真などからも裏付けられました。他遺跡でも出土することを期待しつつ、其の用途や系譜について今後も深く考えていきたいと思います。

小林謙一博士著
上黒岩岩陰遺跡と考古学、第六章 石偶と祈りより

ガラスケース内に展示されている実物を虫眼鏡で覗いてみるが、刻まれた線は極めて細く薄いのでよく見ないとなかなかわからない。発見者の注意力に感心する。

展示されている発掘された成人女性の骨格
よくある樹脂製模型ではなく本物だ

仰臥屈葬されていた頭骨
何千年もの間、多大な荷重にさらされて歪んでいる

【解説文より】
1969年8月の第4次調査時に発掘された3体合葬の人骨のうち、ヘラ状骨器の突き刺さった腰骨が発見されました。縄文時代では石鏃(やじり)以外利器が刺さった唯一の例であり、縄文早期までさかのぼる例でもあったため、「最古の殺傷人骨」として注目されました。人骨の性は男性であり、殺傷の原因として争いごとに巻き込まれた、あるいは狩りの途中で誤って刺されたものと推測されていました。
しかしながら、その後の研究により、この腰骨は女性のものであり、死亡直前、あるいは死後に刺されたものであることが判明しました。
それは、何らかの病気で亡くなった女性に対する儀礼行為として行われ、死亡の原因となった悪霊?を取り除くためであったのではと推測されます。

箆状(へらじょう)骨器が刺さった腰骨

国立歴史民俗博物館研究報告書『愛媛県上黒岩遺跡の研究』が販売されていた。
値段を見てたじろいでいると、著者の一人である
小林謙一博士が久万高原町広報誌「広報久万高原」に12回にわたって連載された記事をまとめた25ページからなる冊子「上黒岩岩陰遺跡と考古学」を無料で頂いた。

発掘現場を見下ろす
高さ20mあまリの巨大な石灰岩のかたわらが発掘されている

◀4層▶ 約8,000年前
押型文土器
人骨
貝殻製ペンダント
石錘

ウサギ・マサバ・イノシシ・キジ・ニホンジカカモシカ・カワウソ・アナグマ・テン・タヌキ・ツキノワグマ・ヤマイヌ・ニホンイヌ・カワニナニホンザル

◀5層▶ 無遺物層

◀6層▶ 約10,000前
無文土器
小型石鏃
変成岩製ペンダント

ニホンジカ・ムササビ・ニホンザルカモシカ・カワウソ・タヌキ・イノシシ・カワニナ

◀7層▶ 無遺物層

◀8層▶ 無遺物層

◀9層▶ 約12,000年前
細隆線文土器
有舌尖頭器
削器
礫器

線刻女性像
ニホンザル

◀10層▶ 無遺物層

色々とありがとうございました。