小島(おしま)にてその5
中部砲台跡に向かって山道を引き返していたら、体長1mを超える大きさの猪に遭遇した。横向きになって通路を塞ぐ茶色の塊は、一瞥しただけで分かったので彼我の距離は10メートルくらいだったと思う。
そういえば島に上陸後、要塞跡に向かって歩いている途中で何度か「ぐるるる~っ!」と獣の唸り声のような音を聞いたが、そのつど海峡を通行する汽船の汽笛か何かを聞き間違えたのだと思い込み無視していた。
こちらに気がついたのか、身体の向きを変え正対しようとするかのような動きをし始めた。
とにかく相手から眼を離さないようにして後ずさりしながら、猪から見えないところまでじり下がり、死角になったとみるや駆け足で山道から一段高くなった場所に駆け上がった。
枯れ枝以外、武器になるようなものは周辺に見当たらない。
1分余りじっとして様子を伺っていたが、どうやら追いかけてくる気配がないのでまた山道に降りた。
もはや中部灯台跡に行く気など失せてしまい、とにかく海岸近くまで引き返すことにした
海岸にほど近い場所まで下りてきたら、今度は左手の茂みからさっきの半分位のサイズの猪が飛び出してこちらの様子をうかがっている。
こいつとなら闘っても勝てるような気がしたが、こちらもしばらく様子を見ているうちにさっき出てきた反対側の茂みに走り込んでいなくなった。
この島の残り少ない人家の脇の家庭菜園を囲う鉄柵が念入りだったことを思い出す。要するに今の季節は猪だらけなのだ
仕方がないので次の船の時間まで海岸付近をうろついて過ごす
現在休業中の海の家。「防犯カメラ作動中」らしい。
小島の沖に設置された海上灯台。探照灯跡から回り込んだ位置からの眺望。
右手奥に見えるのは来島
満潮の時間らしく護岸に波しぶきが打ち寄せている
榴弾砲のレプリカも見えてきた
猪除けの柵に囲まれた家庭菜園
出港時刻が近づいてきた
かつては料理屋か旅館だったらしい海沿いの木造家屋。
錆びたブリキ看板に辛うじて「鯛めし」の文字が読み取れた
ではさようなら
2020/10/20